更新日:2015年3月24日

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住宅政策審議会 第二次答申(平成9年11月21日)

平成9年11月21日

 

千葉市長 松井 旭 殿

 

千葉市住宅政策審議会
会長 服部 岑生

 

新たな時代を展望した千葉市の住宅政策の推進方策について
(第二次答申)

 

本審議会は、平成8年7月30日付8千建第197号を以て貴職から「新たな時代を展望した千葉市の住宅政策の推進方策について」の諮問がなされたことを受け、関連する事項について専門委員会を設け、調査審議を行ってきた。

 

調査審議事項のうち、市営住宅及び特定優良賃貸住宅の供給・管理施策のあり方並びに住宅関連情報の提供方策のあり方については、第一次答申を本年3月28日にとりまとめたところである。

 

本答申は、マンションストックの改良・保全推進方策に関して市が今後講ずべき施策の基本的方向並びに社会ニーズに対応した先導的なモデル事業への千葉市住宅供給公社の取組みのあり方について、諮問以来調査審議を進めてきた成果をとりまとめたものであり、千葉市における住宅政策の推進に当たり、第一次答申同様、十分参酌される事を希望する。

 

目次

第1 はじめに

第2 マンションストックの改良・保全推進方策のあり方

第3 社会ニーズに対応した先導的なモデル事業への公社の取組みのあり方

 

第1 はじめに

 

1 マンションストックの改良・保全推進方策に係る検討主旨

平成5年の住宅統計調査によれば、千葉市においては住宅の54%が共同建てとなっており、共同住宅は一般的な居住形態として定着してきている。
共同住宅のうち、約4分の3を占める賃貸住宅については、最低居住水準未満世帯の解消等居住水準の向上を図ることが最重要課題であり、公的賃貸住宅の改善・建替えや新規供給を推進するとともに、良質な民間賃貸住宅の供給を促進することが求められている。このため、平成9年3月にとりまとめた本審議会第一次答申(以下「第一次答申」という。)においては、これらの施策の基本的方向を提言したところである。
一方、分譲共同住宅(以下「マンション」という。)は所有形態が区分所有であるが故に、合理的な意思決定を行うことが難しい場合が多く、共用部分の適切な管理等を推進する際に様々な障害が存在する。大規模修繕の実施が先送りされ、修繕資金の積立ても適切に行われず、空き家・賃貸住宅比率の増大や居住者の高齢化が進行したマンションは、適正な管理の実施に向けた資金及び人材の確保が困難な状態に陥る危険性が高い。このようなマンションにおいては清掃、設備点検等の停滞による居住環境の悪化や建物の劣化による雨漏り、外壁・ベランダの落下等が生じるなど、居住者が健全な日常生活を営むことが難しくなりかねない。
そのような事態に至らぬよう、マンションにおいて適切に管理・修繕が行われ、必要に応じ適切な改修・建替えも図られるよう積極的な対策を講じ、快適な居住環境の創出や共用施設の充実などを促進することは、市内の全世帯の約7分の1を占めるマンション居住世帯の居住の安定及び生活の質の維持・向上を図る上で意義が大きい。さらに、適切な管理・修繕・改修を通じ、マンションストックの有効活用を促進することは、資源の有効活用、廃棄物の削減等の要請に応えていくことにもなる。
以上のような観点から、本答申においては、千葉市内のマンションストックの管理、修繕、改修、建替えに係る現状及び課題を踏まえ、千葉市が関係機関及び団体との連携等を通じ、限られた財源の効率的な活用を図りつつ、それらの適正化に向け、今後構ずべき施策の方向をとりまとめたものである。

 

2 社会ニーズに対応した先導的なモデル事業への千葉市住宅供給公社の取組みに係る検討主旨

千葉市住宅供給公社(以下「公社」という。)は地方住宅供給公社法(昭和40年法律第124号)に基づき、千葉市における各種住宅施策の推進にあたり、市を補完する実施機関として平成8年7月に設立された。
公社は現在、市営住宅及び特定優良賃貸住宅の一元的管理を中心業務としており、今後は、適正な価格で多様な住まい方に対応した良質な住宅の供給や住宅供給とまちづくりの一体的な推進に取り組むことが期待されている。
一方、行政改革の流れを受け、現在、官と民のあり方そのものが問い直されており、また、住宅供給においては民間事業者が大きな役割を果たしていることから、公社には公的な企業体として、効率的な経営体制を確立しつつ民間との的確な役割分担が求められている。
さらに、住宅の量的な充足を受け、住宅政策は住環境の改善や住宅関連支出の軽減等住生活の質の向上に関わる多様な政策目的への対応を求められてきており、公社としてはそのような様々な政策目的に対応した住宅政策の実施機関としての役割を強化する必要がある。
以上のような観点から、本答申においては公社が千葉市と連携しつつ的確に業務拡充を図れるよう、千葉市の住宅政策の実施機関としての公社のあり方を整理した上で、社会ニーズに対応した先導的なモデル事業への取組方針をとりまとめたものである。

 

第2 マンションストックの改良・保全推進方策のあり方

 

1 千葉市のマンションストックを巡る現状

昭和30年代後半から本格化した千葉市におけるマンション供給は、都心近傍地域におけるファミリー世帯の持家取得を可能とし、定住人口を増加させていく上で大きな役割を果たしてきた。住宅統計調査によれば平成5年時点で市内のマンションストックは約4万戸に上り、持家世帯の約3割がマンションに居住している。

 

(1) 管理を巡る現状

1) 管理組合運営の現状

ア 管理運営に携わる人材の状況

建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)により、マンションの区分所有者は全員で、建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体(以下「管理組合」という。)を構成し、同法に基づき集会を開き、規約を定め、管理者を置くことができる。
マンション管理が的確に行われるためには、管理組合が適正かつ活発に活動していくことが重要である。
市内の管理組合の中には、管理費等の収納、清掃、設備点検等の管理業務をすべて自主管理若しくは直接管理人を雇用することにより対応するなど、自主性の高い管理を展開している管理組合も大規模団地を中心に相当数存在する。
しかし、管理業務を管理会社に委託している団地の区分所有者は共用部分を所有している意識が希薄で管理に対する関心が低い場合が多く、管理組合活動に積極的に参加しようとする人材は少ない。特に、区分所有者の絶対数が少ない小規模団地において管理組合運営に係る人材確保が困難となっている。

イ 空き家、賃貸化に伴う問題の発生

千葉市が美浜区内のマンション管理組合を対象に平成7年度から8年度にかけて行った調査(以下「市調査」という。)によれば、空き家率の平均は約2%と大きくはないが、中には6%を超える管理組合もある。また、市調査によれば賃貸化率は平均約14%、複数の管理組合で25%前後となっている。
空き家・賃貸住宅比率が上昇した場合、管理組合による非居住管理組合員への連絡事務等の負担が重くなり、管理費や修繕積立金の徴収コストが嵩むこととなる。また、規約や共用部分の変更など、区分所有法により区分所有者の4分の3以上の多数決により決することとされている事項への対応が難しくなるなど、適正な管理を確保する上で問題が多い。特に問題となる空き家率を減らすためには、快適な居住環境の保全・創出に向け、管理組合が積極的な管理・修繕・改修を展開していくことが求められている。

2) 居住者の現状

快適なマンション生活を送るためには、居住者が円満な共同生活関係を築くことが重要である。しかし、市調査によればペットの飼育、騒音、専有部分リフォーム、ベランダや駐車場の使用等を巡るトラブルが多数発生しており、円満な共同生活関係が必ずしも築かれていない。
この背景にはマンションが比較的新しい居住形態であるため、そこでの居住ルールの考え方が確立・周知徹底されていないことがある。駐車場の専用使用権を巡るトラブルの多発を踏まえ、平成9年2月に中高層共同住宅標準管理規約の関係規定が整理されるなど、標準的な居住ルールについては方向が明確化されつつある。しかし、一般の居住者にはほとんど認識されていない。

3) ガス管等ライフライン施設を巡る課題

団地型のマンションでは敷地内道路にガス管等のライフライン施設が埋設されている場合が多い。埋設後相当年数が経過した配管設備については更新を検討する必要があるが、その際にはガス事業者等の公益事業者と所有権の移管の可能性等を協議し、管理組合の責任・負担で更新すべき範囲を明確化しておくことが望ましい。しかし、個々の管理組合がそのような協議を進めることは難しいため、ガス管等ライフライン施設の更新は進んでいない。

(2) 修繕を巡る現状

築後一定年数以上経過したマンションにおいては、劣化等の状況に応じ修繕を行う必要が生ずる。特に、外壁の塗装や屋上防水等の大規模修繕を計画的に行うことは快適な居住環境を確保し、建物の長寿命化を図る上で必要不可欠である。
これらの修繕は区分所有者の意思と負担により実施されるものであり、円滑に進めていくためには適切な長期修繕計画を作成し、当該計画に沿った資金計画に基づいて修繕資金を着実に積み立てておくことが重要である。
しかし、市調査によれば修繕の実施状況や積立て状況に関してはバラツキが大きく、適切な修繕計画に基づき積立て・修繕を実施していないケースが相当数存在すると考えられる。
また、中古マンションを購入する際に修繕の実施状況や修繕積立金の状況などを客観的に比較検討しているケースはまれであり、結果として中古マンションの価格は立地条件、専有部分の面積・内装リフォームの実施状況などにより決まっている。このため、大規模修繕を適切に推進して資産価値を維持・向上させる機運が生じていない。

 

(3) 改修を巡る現状

1) 共用部分の改修を巡る現状

豊かなマンション生活を実現していくためには、高齢者世帯の増加に伴う共用部分のバリアフリー化改修など、入居世帯を巡る状況の変化等に応じて適宜改修を進めていく必要がある。特に、昭和40年代後半から50年代前半にかけて大量に供給されたマンションにおいては、今後一斉に高齢者世帯比率の増大が見込まれるため、早急にバリアフリー化を促進する必要がある。また、現行の耐震関係規定に適合しない団地については、安全性の確保に向け、耐震改修を進めていくことも重要である。
これらの共用部分改修は修繕同様、区分所有者の意思と負担により実施されるものである。共用部分改修に向けて当初から計画的に資金を積み立てている管理組合はまれであることから、現状調査等の結果、改修の必要性が明らかとなった場合には、新たな積立てや一時金の徴収等が必要となることが多い。しかし、築後年数の経過したマンションにおいては、専有部分の譲渡・賃貸化が進み、様々な属性の居住者が混在していることから、共用部分改修に向けた新たな負担に関し、合意形成を図ることは難しい。
一方、高齢者・障害者世帯の専有部分の改造については、市による助成金の交付や社会福祉協議会による貸付制度等がすでに実施されているが、共用部分の改修に関しては同様の支援措置が設けられていない。
結果として、市調査によれば築後20年以上経過しているマンションであっても、共用部分のバリアフリー化改修の計画のないものが多いなど、共用部分に関するバリアフリー化や耐震改修については合意形成、資金調達等の難しさから二の足を踏む管理組合が多い。
さらに、修繕や改修の際の現状調査、計画策定、設計、施工の各段階における業者選定、契約等の進め方に関する情報の不足及び公的な相談受皿の不在が適切な改修に向けた管理組合の体制整備を難しくしている。

2) 専有部分の改修を巡る現状

内装の模様替え、間取りの変更、増築等マンション専有部分における改修は、居住環境の改善、ライフステージに対応した住まいの確保、資源の有効活用等を推進する効果がある。一方、事前に工事内容・費用を確定することが難しいことや既存の設備容量との整合性を確保する必要性があること、施工の際に騒音・振動への特段の配慮を求められることなどの制約がある。
区分所有者は、それらの特性を十分に理解した上で改修に取り組む必要があるが、専有部分の改修に係るルールや上手な取組方法が確立・周知徹底されていないため、共用部分と専有部分との不整合や居住者間の様々なトラブルが生じている。

 

(4) 建替えを巡る現状

1) 建替えを検討している団地の存在とその背景

容積率の余裕分を保留床として整備・処分して再建築費用の全体又は一部をまかなう「等価交換方式」による従来型のマンション建替事業は、容積率に余裕があり、かつ、地価が高い場合に限り成立することから、地価の下落等近年の経済社会情勢の変化により、難しくなっている。また、今後は高齢者世帯比率が急上昇し、経済的な負担能力が低下する結果、建替事業が実質的に困難となることが予想されている。
そのような認識のもと、近い将来における建替えに備え、慎重に検討を進めている管理組合が見受けられる。

2) 建替えの検討を巡る課題

現在、建替えを検討している団地においては、建物の性能を維持し、又は回復することが困難なほど建物の老朽化、損傷等が必ずしも進んでいるわけではないため、建て替える場合には原則として全員合意の上で事業を進める必要がある。しかし、区分所有者の経済的な負担能力や利用形態、永住志向等についてバラツキが存在することから、新たな経済的負担を伴う建替えについては合意形成が難しくなっている。
特に、高齢者世帯等経済的な負担能力が低い世帯が住み続けられる建替えをいかに実現させるかが大きな課題となっている。
また、建替えを行った団地は既定の容積率を最大限使用し、新築マンションに比べ高齢者世帯の比率が高くなると予想される。したがって、再び建替えを行う際には、採用しうる事業方式が限定されるとともに、新たな経済的負担が困難な者が増え、問題が一層難しくなる可能性が大きい。

3) まちづくりとの整合性の確保について

市内最大のマンション立地地区である美浜区においては、昭和40年代後半から、1小学校区ごとに保育所や児童公園を、2小学校区ごとに中学校や近隣公園を整備するなど計画的に開発が進められ、結果として法定容積率が200%の地域にあるほとんどの団地が容積率100%以下で計画・建設され、良好な居住環境を形成している。
このように、市内には公共公益施設とのバランスを確保しつつ良好な住環境を形成しているマンションストックが多い。しかし、建替事業は再建築費用を調達するために戸数を増加させる方向に傾きがちであることから、良好な住環境が保全され、公共公益施設とのバランスが確保された建替事業をいかに誘導するかが課題となっている。

 

2 講ずべき施策

(1) 管理の適正化に向けた各種施策の展開

1) 管理組合運営の適正化に向けて

管理組合の活動の適正化に向けては、自主性の高い管理を展開している管理組合のノウハウを他の管理組合が活用できるよう情報交流を促すとともに、管理組合員の意識啓発により管理組合活動に積極的に参加する人材を増やしていくことが効果的である。
このため、市として市内の管理組合によって構成される協議会等(以下「管理組合関連団体」という。)による相談事業、セミナー等の情報交流活動への取組みを支援し、管理組合運営に関する情報等の流通や管理組合員の意識啓発を促進する必要がある。この場合において、管理組合関連団体が的確に活動を進められるよう、市としては市内の管理組合の実態把握に努め、適宜情報提供していく必要がある。
また、管理組合が管理費滞納問題や修繕計画の策定等に的確に対応していく上では、弁護士・建築士等の専門家に相談することが有効であることから、そのような専門家の団体と管理組合関連団体とが連携して相談体制を整備できるよう、相談会場の斡旋等の支援に努める必要がある。

2) マンションに関する基礎知識の情報提供等の推進

マンションにおけるトラブルの原因の大半は、規約の不備及び居住者の認識不足であると考えられる。
このため、区分所有法、新しい中高層共同住宅標準管理規約等の居住ルールに関連する情報を管理組合及びマンション居住者向けに積極的に提供することなど、管理組合関連団体による啓発活動を支援することにより、トラブルの発生を防止する必要がある。

3) ガス事業者等の公益事業者と管理組合との協議の円滑化

個々の管理組合が団地内の埋設管等に関して公益事業者と協議を進める際の負担を軽減するととともに、公益事業者側についても統一的な方針のもとに効率的な対応が可能となるよう、公益事業者側と交渉する際の統一的な窓口としての役割を管理組合関連団体が担うことが考えられる。
この場合、管理組合関連団体は、あらかじめ公益事業者の方針を確認し、管理組合の意向を整理することなどが期待される。市としては、公益事業者と管理組合関連団体との協議が円滑に進むよう協議会場の斡旋等の支援を行い、ライフライン施設の適切な更新を促進する必要がある。

(2) 適切な修繕の実施に向けた誘導施策の展開

1) 情報提供の推進

修繕への取組みが不十分であった管理組合が修繕計画・積立金を設定又は見直し、修繕積立金を的確に徴収できるよう体制の整備を促進するためには、修繕に関する区分所有者の認識を高めていかねばならない。
このため、市は区分所有者、管理組合、マンション購入検討者に対して修繕計画・積立金の標準的なモデルや実例に関する情報提供を行い、修繕計画の策定・見直しの際の参考資料又はマンション購入の際の判断指標としての活用を推進するとともに、管理組合側が資産価値を維持する観点からも修繕に努めざるを得ない状況を醸成していく必要がある。

2) 資金調達に係る支援の実施

的確な修繕を実施するためには、計画に基づく修繕積立金が確実に徴収され、不足分については一時金の徴収や金融機関からの借入れを行う必要がある。修繕工事の実施に伴う住宅金融公庫からの借入れは無担保で行わざるを得ないケースが多いため、修繕積立金の滞納率についての条件を満たし、債務保証を受ける必要がある。これらはマンション共用部分の修繕特有の制約条件といえる。
このため、滞納されている修繕積立金の徴収に関して管理組合が的確な対応を図れるよう、弁護士等の専門家の団体と管理組合関連団体とが連携して相談体制を整備できるよう支援するとともに、住宅金融公庫からの借入れの際の債務保証経費について負担軽減策を検討する必要がある。

(3) 適切な改修等の実施に向けた各種施策の展開

1) 質の向上に向けた共用部分改修等の促進

ア 情報提供による意識啓発

高齢者世帯比率の急速な上昇や大震災等の発生に備え、あらかじめバリアフリー化や耐震改修等の対応が図られるよう、マンションにおける長寿社会対応や耐震性の確保等に関し、管理組合やマンション居住者向けに情報を提供し、意識啓発に努める必要がある。

イ 資金調達に係る支援

修繕関連の資金調達同様、積立金の滞納率低減に向けた取組みへの支援や債務保証経費の負担軽減策を検討する必要がある。また、一戸建て住宅やマンション専有部分の高齢者・障害者対応工事に対して支援策を講じているのと同様に、長寿社会対応や耐震性の確保等一定の政策課題に対応した共用部分の改修については、負担軽減措置等の支援策を検討する必要がある。

ウ 福祉・医療サービスとの連携

空き住戸を福祉・医療サービスの巡回拠点として活用することなど、マンションに居住する高齢者世帯が効率的に福祉・医療サービスを享受できる環境の整備を促進する施策のあり方について検討する必要がある。

2) 専有部分改修の適正化に向けて

共用部分との不整合や居住者間のトラブルが発生することなく居住環境の改善等に資する適切な改修が進められるよう、専有部分を改修する際の設計・施工上の注意点並びに上手なリフォーム及び増築の考え方並びに実施例に関して情報提供を推進する必要がある。特に、バリアフリー化対応の考え方や実施例については積極的な情報提供を行い、助成制度の活用と併せて専有部分における長寿社会対応を促進すべきである。

(4) 適切な建替えに向けた誘導施策の展開

1) 高齢者等が住み続けられる建替方式の誘導

マンション建替えに際しては、高齢者世帯等が過大な負担を伴わずにいかに住み続けられるようにするかが大きな課題となる。
一方、高齢期における居住の安定に向けた環境整備は国家的な課題となっており、国においては高齢者による住宅取得等の際の資金調達制度に関し調査研究を進めるとともに、終身年金保険を活用した家賃の一時払い方式等を採用したシニア住宅の整備を推進しているところである。
このため、市としても国における研究状況等について情報収集を行い、ガイドラインの策定等を通じ、高齢者世帯等の資金調達に関して工夫がなされた建替方式を誘導する必要がある。

2) 建替問題の再発への対応

高齢者世帯等の居住の安定及び資源の有効活用を図る観点から、建替え後のマンションは耐用年数の長いものとする必要があり、高耐久性の構造躯体(スケルトン)を有し、内装や設備については構造躯体と分離させて可変性・多様性を確保したスケルトン住宅の導入が有効と考えられる。
また、将来的に再び建替えを行う際に権利関係が単純化され、円滑に建て替えられるよう、定期借地権を導入するなど事業方式を工夫することが望ましい。
このため、スケルトン住宅や定期借地権を導入した建替事業のあり方及びそのような事業を公社がモデル的に実施することについて検討する必要がある。
なお、新築マンションについても、将来的な建替問題に初めから配慮することが望ましいため、マンションの長寿命化や定期借地権方式の有用性についての啓発に努めていくべきである。

3) まちづくりと連携した建替事業の誘導

ア 公共公益施設とのバランス確保に向けて

公共公益施設とのバランスが確保された建替事業を誘導するためには、公共公益施設関連の情報をあらかじめ提供していくことが有効である。
具体的には、マンションが多く立地する地区における公共公益施設の容量及び今後の整備計画並びにそれらを踏まえた建替計画の指導のガイドラインなどをとりまとめた「建替計画指導指針」を策定・周知し、適切な建替計画の策定を誘導していくことが考えられる。

イ 良好な市街地環境形成に資するプロジェクトの誘導

ほとんどの場合に戸数増を伴う建替事業の実施後も良好な居住環境が確保されるようにするためには、良好な市街地環境の形成に資するプロジェクトを様々な手法により誘導していく必要がある。
このため、総合設計制度の的確な運用等を通じて良好な外部空間を有する事業を誘導していくとともに、良質な共同施設等を特に整備する場合には、優良建築物等整備事業などの国庫補助事業を活用して支援することについても検討する必要がある。

 

第3 社会ニーズに対応した先導的なモデル事業への公社の取組みのあり方

 

1 住宅政策の実施機関としての公社のあり方

 

(1) 住宅政策の目的の多様化

住宅が量的には一応充足していることを受け、住宅政策の目的は住宅関連支出の軽減、長寿社会への対応、環境との共生、安全で良好な住宅市街地の整備、定住の促進、地域の活性化等の多様な社会ニーズに対応した良質な住宅の供給及び住宅市街地の整備へと移行してきた。

 

(2) 政策目的の達成に向けた公共の役割

政策目的の多様化や民間事業者の役割の増大、住宅ストックの充実などに伴い、住宅政策の目的の達成に向けては、民間住宅供給、既存住宅の流通を含めた住宅市場の機能を活用することが求められている。結果として、公共に対しては、市場を補完するための公的賃貸住宅の供給に引き続き取り組んでいくことに加え、市場が適正に機能するための基盤整備及び制度的枠組みの整備並びに助成措置等を通じた市場の誘導などを進めていくことが期待されている。

1) 市場を補完する公的賃貸住宅の供給

住宅に困窮する低所得者の居住の安定及び借家世帯の居住水準の向上に向けた、市営住宅及び特定優良賃貸住宅の供給管理施策のあり方については、第一次答申において基本的な取組方針を提言したところである。

2) 住宅市街地を支える公共施設整備

安全で良好な住宅市街地の形成に向けては、道路、下水道、公園・緑地などの基盤施設と整合の図られた整備・開発を推進するとともに、それらの整備が遅れている密集市街地においては区画整理等を通じ、基盤整備を推進する必要がある。

3) 住宅関連情報の提供

住宅関連情報の不足に起因する住宅の取得等の際の不満・トラブルの発生防止、居住水準の向上に向けた住み替え・リフォーム等の促進及び事業者等の体制整備支援に向けた住宅関連情報提供施策のあり方については、第一次答申において基本的な取組方針を提言したところである。

4) 快適で質の高い住宅市街地の形成・保全に向けた市民の取組みへの支援

市民による身近な住まいづくり・まちづくりへの取組みは、緑化、バリアフリー化、美しい景観の形成等、生活者の視点に基づく個性豊かで魅力的な環境の形成及び良好なコミュニティの形成をもたらすことが期待される。
しかし、市民一人ひとりの社会的立場は極めて弱いことから、持続的な活動の確立に向け、公的主体が支援していく必要がある。このため、居住環境の改善に向けた戸建て住宅の共同建替え、計画段階から住まい手が参加するコーポラティブ住宅の建設など市民が共同で行う住まいづくりを支援する制度的枠組みを整備するとともに、良好な住宅・住環境や街並みを形成し、守り育てようとする市民の自発的な地域活動を地区計画、建築協定、緑地協定の活用等を通じ支援していく必要がある。

5) 助成措置、先導的なモデル事業の実施等

多様な社会ニーズに対応した良質な住宅ストックの形成に向け、ガイドライン等の情報提供、助成措置、先導的なモデル事業の実施などを推進していく必要がある。

 

(3) 政策目的の達成に向けて公社が果たすべき役割

(2)に掲げられている公共の役割の考え方に基づき、公社には今後、市場を補完する賃貸住宅の供給、基盤施設整備関連事業の実施、住宅関連情報の提供、市民による主体的な住まいづくり・まちづくり活動への支援、社会ニーズに対応した先導的なモデル事業に取り組んでいくことが期待される。

1) 特定優良賃貸住宅の供給

第一次答申において提言したように、公営住宅が多数存在している地域において収入超過者の移転先としての賃貸住宅が絶対数として不足している場合などには、公社による特定優良賃貸住宅の供給を検討する必要がある。

2) 基盤施設整備関連事業への取組み

公社には安全で良好な住宅市街地の形成に向け、市街地再開発事業、土地区画整理事業等の施行主体として、道路、下水道、公園・緑地などの良好な基盤施設整備関連事業を推進することも期待される。

3) 住宅関連情報の提供

第一次答申の提言を踏まえつつ、今後、市が積極的な住宅関連情報の提供に取り組んでいく際には、公社としても自ら管理する特定優良賃貸住宅を含めて住宅に関する情報提供機能を強化していく必要がある。

4) 市民による主体的な住まいづくり・まちづくり活動への支援

良好な住宅・住環境の形成・保全に取り組む市民に対する支援としては、まちづくりの専門家に関する情報提供や市民の活動に対する助成等を行うことが考えられる。この場合において、公社には専門家等の登録や募金型基金の創設などを通じ、実効性のある仕組みを創設・運用することが期待される。

5) 社会ニーズに対応した先導的なモデル事業の実施

多様な社会ニーズに対応した良質な住宅ストックの形成を誘導していくための施策のうち、公社には先導的なモデル事業を実施していくことが期待される。公社としては今後、これらの役割を果たすべく体制の整備等に努めていく必要があるが、このうち、「社会ニーズに対応した先導的なモデル事業の実施」以外は市の進めるべき施策に協力し、実施機関としての役割を果たす側面が強い。したがって、以下においては公社が主体的に企画し、市と連携して進めていく必要がある「社会ニーズに対応した先導的なモデル事業の実施」について、今後取り組んでいく上での方針を提言し、積極的かつ的確な取組みを期待するものである。

 

2 社会ニーズに対応した先導的なモデル事業への取組方針

 

(1) 基本方針

先導的なモデル事業に公社が取り組んで行く際には、可能な限り民間事業者を活用することなどを通じ、組織の肥大化を回避して効率的な経営体制を確立するとともに、様々な社会ニーズへの対応方法に関して、市民にわかりやすい形で提案を行い、広く啓蒙を図っていく必要がある。
ただし、社会的に必要な供給量や整備水準が民間事業者により達成されることが見込まれる分野については原則として取り組まないなど、民間との的確な役割分担に配慮すべきである。

 

(2) 対応すべき社会ニーズ毎の事業のあり方

用地確保が難しい状況の中で、公社が効率的・効果的にモデル事業を実施していくためには、事業箇所を絞り込み、各事業について可能な限り多くの社会ニーズに対応するよう工夫し、それぞれの事業の計画上・事業手法上の特色について広く啓蒙を図っていく必要がある。
この場合において、各種社会ニーズへの具体的な対応については、以下に掲げる方針に基づき積極的に取り組んでいくことが望まれる。

1) 用地費・建設費の低減

現在、様々な分野において高コスト構造が指摘されており、住宅についても国際的にみて用地費・建設費とも割高なことが提起されていることから、規制緩和などを通じてそのような構造を是正し、同様の負担のもとでの住宅の質的な向上や住宅関連支出の軽減を可能とすることを促進し、市民生活の質を向上させることが期待されている。
このため、公社としては定期借地権の活用、発注・資材調達方法の工夫等を通じて用地費及び建設費を低減したモデル事業を実施し、低コスト住宅の普及を促進することが望ましい。

2) 長寿社会・環境共生対応

公社が供給する住宅については、長寿社会対応に向けたバリアフリー化及び福祉・医療サービスとの連携並びに環境との共生に向けた省エネルギー化などの面においても先導的に対応していくことが期待されている。
さらに、人口の高齢化に伴う投資余力の低下や資源の有効活用の必要性に対応する観点から、スケルトン住宅をモデル的に供給していくことなどを通じ、長期の使用に耐えうる質の高い住宅ストックの形成を誘導していくことが望まれる。

3) 快適で質の高い市街地環境の形成

公社が整備する住宅団地は、良好な居住環境が確保された住宅市街地の整備のあり方のモデルとなることが期待されている。
このため、団地内の空地と道路、公園、緑地などの公共施設とが快適な空間を一体的に構成するなど、良好な外部空間を創出した事業に公共施設整備部局と連携を図りつつ取り組むことが望まれる。
また、団地内にゆとりある空地を確保して緑豊かで潤いのある街並みを形成する視点から、定期借地権の活用等により、ゆとりのある敷地を確保し、景観や美観にも配慮したモデル事業を推進することも有効である。
さらに、戸建て住宅の供給に際しては、建築協定や地区計画等を活用して無秩序な増築や敷地の細分化による環境の悪化を防止するなど、市街地全体としての良好な環境を長期にわたり整備・保全していく仕組みを導入することが望ましい。

4) 定住の促進、地域の活性化

21世紀における千葉市の活力ある発展に向けては、定住人口の増進や地域の活性化に寄与する住まいづくり・まちづくりを推進していく必要がある。このため、公社の住宅供給事業においても、計画段階から市民が参加するコーポラティブ方式の採用等を通じ定住性を高めることや、老人福祉センター、保育所等公共公益施設と一体的に整備することに取り組むことが期待されている。

 

(3) 業務拡充方針

1) 基本方針

公社は、2(2)に掲げた社会ニーズに総合的に対応した事業を実施するのが理想であるが、当面は技術力の蓄積や体制整備を図りつつ、可能な範囲で各種社会ニーズに対応した事業を段階的に展開していくことが現実的である。
この場合において、各種社会ニーズに対応した事業を市場性を保ちつつ展開していくためには、定期借地権の活用等を通じ、コストの低減を図ることが有効と考えられる。

2) 当面の業務拡充方針

定期借地権付き住宅供給事業(以下「定借事業」という。)は、都心居住、ゆとりある多世帯住宅、若年層の持ち家取得等をより低い負担で可能とするとともに、マンションの場合には建替え時の権利関係が単純化されるというメリットもある。
一方、借地契約期限が近づくにつれ良好な維持管理を確保するインセンティブが薄れがちであることなど、定借事業については、今後適切な普及を図っていく上で多くの課題がなお存在している。
これらの課題に適切に対応した住宅供給事業を誘導するためには、公社が資源の有効活用、良好な住環境及び維持管理の確保に配慮したモデル的な定借事業に積極的に取り組むことが望ましい。
また、信用力の高い公社が事業主体として間に入ることにより、契約関係や地代徴収等に係る土地所有者の懸念が払拭され、定借事業による遊休地の有効活用が進むことが期待される。なお、公社が自らの事業経験等を活かして将来的に定借事業関連の情報提供、相談体制の整備を図ることについても、同様の主旨から、積極的に取り組むことが望ましい。以上のような観点から、公社は当面、定期借地権を活用した良質な住宅を供給する事業に取り組むことを基本とし、長寿社会への対応、環境との共生、快適で質の高い市街地環境の形成、定住の促進、地域の活性化等他の社会ニーズにも可能な限り対応していくことが望ましい。
また、市としては公社による的確な取組みを促す観点から、他の公的な住宅供給主体における先進的な取組み等に関する情報の収集・整理に努め、公社に情報を提供するなど、公社の体制整備、技術的な検討等に関して必要な支援を行っていく必要がある。

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