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更新日:2015年12月8日
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心の輪を広げる体験作文
千葉市優秀賞受賞 作品
【中学生部門】
「祖父の声」
藤田 魁
(千葉大学教育学部附属中学校 2学年)
「私は、孫を抱くこともできない。」祖父の葬儀で、祖父の友人からの弔辞で読まれた生前の祖父の言葉だ。
祖父は、僕の生まれる少し前に交通事故で左半身不随となっていた。祖父が友人に言ったというこの言葉を聞き、僕は正直とても驚いた。なぜなら、祖父は不自由な体ではありながらも、家族みんなと旅行をしたり、食事に行ったり、楽しそうに生活を送っていた様に見えたからだ。祖父は、みんなと同じように孫を抱けないこと、みんなと同じように歩行や食事ができないこと、そんなもどかしさや悔しさ、悲しさを人には見せず、生きていたのだ。
僕は、祖父がそんなことを思いながら生きていたと知り驚くとともに、このような祖父の思いは、障害を持つ他の人々にも同様に当てはまるのではないかと思った。多くの障害を持つ人々は、他の人が当たり前にできることが自分にはできないことに悲しみや苛立ちを感じながらも、それを胸に秘め、それでも懸命に、楽しく笑顔で毎日を生きようとしているのではないだろうか。
だとしたら、そういった障害を持つ人々に対し、僕たちは、どのように接していけばよいかを考えてみた。例えば、可哀そうだからといって、何か特別なことをしてあげるのが良いことなのだろうか。僕はそうは思わない。それは、障害を持つ人々にとっては逆効果になってしまう可能性もある。僕の祖父は、失った機能を少しでも取り戻し、自分らしく生きるために一生懸命リハビリに取り組んでいたのだ。必要以上の手助けや、障害を理由にしてチャレンジすることをあきらめさせてしまうことは、前向きに生きようとする祖父の可能性をうばう結果になってしまうであろう。だから、僕たちは、障害を持っている人たちを特別視する必要など全くないのである。僕たちができること、それは、障害を持っているのだから何かを“してあげる”。そんな考え方を捨てることだ。“障害があるのだから無理”と決めつけるのではなく、一人の人間として、たくさん話し、笑い、共に生きていく。それだけでいいのだ。それこそが僕たちが、障害を持つ人々と接する上でとても大切なことだと僕は思う。
僕が小さい頃、僕は、祖父と一緒に近くのスーパーにある喫茶店へアップルパイを食べに行った。祖父の車いすをゆっくり、ゆっくり押しながら歩く道。僕は、祖父と色々な話をした。祖父の子供の頃のこと、祖父が若い頃、地質技師として、様々な国で仕事をしていた時のこと、祖父はたくさんのことを僕に教えてくれた。そんな祖父の話を聞くのを、僕はとても楽しみにしていたことを覚えている。
僕は、祖父の生きていた頃の、旅行に行った思い出や、懸命にリハビリをする姿、祖父と過ごす楽しかった日々をきっと忘れないだろう。そしてもう一つ忘れられないことがある。それは、祖父と食べるアップルパイのやさしい味と、背中ごしに聞く、嬉しそうな祖父の声。
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