千葉市立加曽利貝塚博物館 > 総合案内 > 「加曽利のヒト Wの部屋」更新
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更新日:2024年2月4日
この『加曽利のヒト』では、加曽利貝塚博物館に勤務する学芸員が、縄文時代や史跡について、また、博物館の業務にまつわる日々の出来事などをご紹介します
加曽利貝塚のヒト”W”です。Wは、主に加曽利貝塚博物館の展示について紹介します。博物館では年に4~5回、企画展示スペースでテーマを変えて加曽利貝塚や縄文時代について展示解説しています。展示では、みなさんにより関心を持ってもらえるよう、資料の並べ方や解説パネルにさまざまな工夫をしています。私は工作が好きなので、この展示づくりの裏側などを語ろうと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
ひさかたの天の香具山この夕べ、
霞たなびく春立つらしも。
しかし、立春を迎えてもなお雪が降らんとする千葉では、遠くの山々にかかる霞に春の訪れを感じることは、まだ難しいかもしれない今日この頃です。
かなり強引な導入ですが、遠くの山つながりということで、本日は「遠近法」を用いたE式展外房編のこだわりポイントについてお話します。前回の続き、「実は写真にもこだわりが…?」です。
まず前回のおさらいから。今回のメインビジュアルパネルは学芸員のニッチなこだわりの結果パネルサイズの都合、黄金比による分割と配置を企図しました。そこでまずは、展示スペースと石膏ボードの位置に合わせて、下の設計図を作りました。
ここに企画展で展示する土器から代表的なものを選び、一目で企画展の内容がわかるような画(え)を作っていくことになります。これには、去年のE式展の日記でもお伝えした、「総体としての遺物のインパクトを伝えるため」の写真である土器の集合写真が最適です。土器の集合写真を撮るためには、どこにどの土器を置いて、どの角度から撮ると「映える」のか、検討する必要があります。そこで、まずは下の図のように遠近グリッドを組んで、土器の配置を検討しました。
口縁の把手、土器を復元している石膏の位置の隠し方なども考えながら試行錯誤し、ベストな配置を決定しました。青枠は先の設計図で決めたパネルの配置です。
しかし、ここで問題が発生します。この遠近グリッドは1マス30cm四方で作成しています。よって、この空間を現実に再現するには、およそ3m×5mの広さの撮影空間が必要になってしまうのです。土器の写真をとる場合、余計な物が写りこまないように背景は真っ白であることが望ましく、また照明設備も空間全体を照らす巨大なトップライトがあることが望ましいです。つまり、非常に大がかりなスタジオでしか撮れない写真になってしまいました。
当館では撮れません。
ならばどうすればいいか。
そう、カメラが動けばいいんです。
まず遠近グリッドに基づき、視点から各土器までの水平距離と横方向の移動距離を算出します。視点の高さは、口縁部の見映えなどから、グリッド設定時に120cmとしました。
本来の集合写真の場合は、土器を動かして(配置して)、図の下のようにひとつの視点から撮影し、遠近感をもった像を投影面に写し出します。※投影面は説明の都合カメラから離しています。
一方、図の上のようにカメラを動かせば、モデルから算出した距離で撮影することで、撮影空間が狭くとも、投影面に集合写真と同じ角度・大きさの個体像を写し出すことができます。こちらがその個体写真です。
あとは画像編集ソフトで微調整して合成すれば完成です(微調整/合成のこだわりは、長くなるので省略します)。できあがりは、前回記事の冒頭写真、および実際の展示をご覧ください。外房地域の土器の多様な造形や土器群が発するインパクトを、少しでも皆さまにお伝えできれば幸いです。
当館企画展「あれもEこれもE加曽利E式土器 外房地域編」は、来週から展示資料を一部替えて、3月10日(日曜日)まで開催しております。立春を迎えてもなお寒い日が続きますが、暖房がきいた博物館にお越しいただき、展示をご覧いただけますと幸いです。
次回予告「そろそろ学芸員らしく土器の解説とかしたほうがいいかもしれない?」続く…はずです。
月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。
大変ご無沙汰しております。当館に着任して2年目も終わろうというのに3回目の更新となります、この部屋のヌシ「W」です。
今年も無事、「E式展」が開催のはこびとなりました。ご協力いただいた機関・関係者のみなさまに改めて御礼申しあげます。
実は今回のE式展、展示スペース、資料数、学芸員のニッチなこだわりなど、もろもろな面でバージョンアップしております。ここではその裏側について、テーマを分けて紹介します。
本日のお題はこのメインビジュアルの「デザイン」についてです。こだわりのあまり長文です。さらっと流してお読みいただけますと幸いです。
博物館の展示において「デザイン」は重要な要素のひとつです。
特に「なんらかの情報を伝えること」を目的とする展示において、情報を的確に整理・配置、あるいは時に強調し、みる人がストレスなく適切に情報を受け取ることができるようにする「伝わるデザイン」が重要となります。ですが、それは傍らに置いといて、ここでご紹介するのは、みる人を置き去りにした「ビジュアル」と「学芸員のこだわり」に特化したデザインのお話です。
まず今回のメインビジュアルパネルについて、大きさは全体で4m×2mほどになる大作を企画しました。特別展の入り口にあるような導入パネルをイメージしています。このような巨大なパネルは、通常の場合ですと専門の業者に外注することが多いのですが、当館では予算の都合、これを自前で印刷・作成しております。
自前で作成する以上、パネルは規格品の800mm×1100mmが上限になるため、これより大きなものを作るには、パネルをいくつかに分割する必要があります。そうなると分割した境界、すなわち画(え)が切られてしまう部分が目立ってしまいます。つまり、分割と配置も「デザイン」する必要があるのです。
分割・配置…そう「フィボナッチ数列」です。
「フィボナッチ数列」は、1,1,2,3,5,8,13,21…のように「ひとつ前とその前の数字を足した数」という規則で並ぶ数列です。正方形に変換して組み合わせると上の図のように規則的に配列することができます。この「フィボナッチ数列」は、この正方形の対角線を結んだらせん構造とともに、自然界の多くの現象にみられる「最も安定した効率的な配置」として知られ、デザインの世界ではいわゆる「黄金比」として最もよく使われる構図の一つになっています。
今回のパネルも、この配列とらせん構造を意識して、図のように区切って作成しています。パネルの中身は全体の配列が生きるように、土器の集合写真をらせん構造にして撮影・作成しました。さらに展示エリアの都合、ケースに土器を詰めすぎたため収まる場所がなく、ビジュアルパネルの横に来ざるを得なかった冒頭説明のパネルと合わせて、
このように二つのらせんが連結して全体をつらぬき、それぞれのらせんの頂点に「博物館ロゴ」と「企画展タイトル」を重ねる構図を採用しました。これは、黄金比において視線が集中するとされているらせんの頂点にロゴを配置する意図があります。また、バラバラのパネルの境界をつないで、一つの大きなパネルにとして成り立つようにという意識もあったりします。
完成版をもう一度。
こうなると、どうせ配置するならば、土器の配置にも何らかの有機的な意味、すなわち縄文土器的な、あるいは縄文通な人が「おっ」と思うようなストーリーを持たせたくなります。
そこで今回の展示ストーリーに即した配置にしました。
東北(左の上)より来(きた)る大木式のインパクトが、関東の土器づくりに変革をもたらし、多様な土器が生成される揺籃期を経て、加曽利E式(手前の真ん中)が成立。それが定型化していくとともに、西から(左)もたらされる土器情報を受け入れ、徐々に変化していく中期後葉の歩み。土器の口縁部をなぞり画全体をつらぬく「らせん」は、E式を象徴する「渦巻文」のメタファーであり、その成立から変容までの有機的な流れ、渦巻きのように幅広い多様性から凝縮された斉一性へと収斂していく加曽利E式の歴史を表現しています。
※土器の解釈には諸説あります。
このようにルールに則った構図で配置する中に、「意味」を込めることもまた、展示のデザインの醍醐味のひとつではないでしょうか。
…ところで、展示に限らず、デザインにおいて重要なことは、
「それを説明せずともみる人が受け取れること」です。
デザインは、みる人にさりげなく寄り添うものでなければなりません。明文化しなければ伝わらないようなものではダメなのです。よって、これから展示をご覧になる皆さまにおかれましては、一旦、【ここまで書いたことはすべてお忘れいただき】、純粋な目で、ぜひ、このビジュアルパネルにも注目して、展示をご覧いただけますと幸いです。皆様のご来館、心よりお待ちしております。
次回予告「実は写真にもこだわりが…?」
2022年の年の瀬も迫っているというのに、今年ようやく2回目の更新になります「W」です。
本日は、現在開催中の企画展「あれもEこれもE加曽利E式土器内房地域編」の裏側を紹介します。
紹介するのはこのポスター製作の裏側です。
今回のポスターでは、企画展で展示した土器を並べてみました。
通常、考古学では遺物を1点づつ撮影する記録写真が一般的です。
一方で、このように遺物を並べて撮影する写真を集合写真といい、
総体としての遺物のインパクトを伝えるために撮影されます。
遺跡の発掘調査報告書の巻頭カラーページなどでよく使われます。
ですが、このような写真を撮るのはそう簡単ではありません。
撮影対象から十分な距離をとれる広いスタジオと、大がかりな機材、そしてカメラマンの技術が必要です。
当館の設備と私の技術ではちょっと難しかったので、
実は、今回は集合写真「風」に作った合成写真になります。
ではその製作の裏側を紹介します。
まず土器を撮影します。
下の写真は撮影風景です。所狭しと土器が並んでいます。
撮影した写真はデジタル処理で色合いや背景を整えます。
ポイントは、背景を消す際にうまく土器の影を残すことです。
つづいてポスターの背景を用意します。
今回は高級感あるシルバーの背景にしました。
デザインで文字を上、土器を下に配置すると決めていたので、
背景の上側は、天からの光をイメージして明るくします。
つづいて土器を並べていきます。
実寸の縮尺に合わせた写真を、遠近感を意識して配置します。
サイズを微調整したり、遠くの土器はピンぼけさせたりしています。
本物の集合写真の撮影では、この配置がとても大変です。
見せたい部分を強調しながらバランスよく並べるセンス、光源の位置と強さなど、カメラマンの技術が問われます。
また出土遺物は貴重な文化財です。
配置を変えて動かす際はとても神経を使います。
なので本物の集合写真は、そのようなプロフェッショナルの技術が結集した、まさしく渾身の一枚といえます。
報告書を見る機会があれば、ぜひ意識して見てみてください。
今回はパソコン上でパパっと楽に配置しています。
ただ、やはり写真のインパクトは、集合写真には及ばないですね。
なんとなく土器と背景がなじまないので、床をイメージして背景を加工しました。土器の隙間から境界をチラ見させるのがポイントです。
床を斜めにしたのは、なんとなくオシャレな感じがしたからです。
企画展タイトルを加えます。
オシャレだと思いEと副題を白文字にしたら見づらくなりました。
文字の影と映画のタイトルにありそうなラインを足します。
あとは、博物館ロゴや情報を加えると完成です。
タイトル背景の千葉県シルエットがポイントです。
博物館にお越しいただき、展示をご覧になる際には、
ぜひ「ポスター」にも注目してみてください。
ちなみに、展示については「Nの部屋」で紹介しています。
4月に異動してきた「W」です。
もう夏休みも半分過ぎたところで、いまさらながらはじめて日記を更新します。
皆さまどうぞよろしくお願いいたします。
さて、本日は、園内マップについて紹介します。
(新しいマップは近々、博物館にて配布予定です)
園内マップはすでに配布していますが、
今回はより加曽利貝塚の魅力が伝わるよう、
ちょっと工夫しました。それではどうぞ。
1.地形図を用意する。
正確なマップをつくるために地図を用意します。
(地形・建物・道路が入った都市計画図など)
2.道路などを描く
オリジナルの地図は情報が多すぎるので、
地図から必要な道路などだけを選んで描きます
3.建物を描く
地図から立体的な建物を描きます。
光の方向を意識して影をつけるのがポイントです。
4.木を生やす
園内に木を生やします。
ひとつの木の絵を色や大きさを変えて重ねます。
加曽利貝塚では縄文時代の植生を復元するために、
樹木管理しているため「木の地図」があります。
今回はその地図(画像下)を参考に、
リアルな木の配置(画像上)にしました。
5.建物の名前などを書く
駐車場やトイレの場所はアイコンを使います。
6.パーツを足して完成
ロゴや連絡先などを足して完成です。
建物のサイズや木の配置を正確に再現したので、
園内の広さ、緑あふれる感が伝われば幸いです。
近日中に印刷配布しますのでおたのしみに。
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教育委員会事務局生涯学習部文化財課加曽利貝塚博物館
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ファックス:043-231-4986
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